当センターの取り組み

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概要

新潟大学研究統括機構付置・カーボンニュートラル融合技術研究センターは2022年4月に発足し、世界最高水準の太陽熱・太陽電池・水電解技術開発の促進、及び融合技術の開発を目的とした研究を行っています。それぞれの分野の技術の高効率化・大型化・経済性向上を図ると共に、融合技術の研究・実証により、国内・海外、大型・小型、昼間・夜間の様々な利用場面に適合した太陽エネルギー利用技術(発電・水素製造・CO2利用(CCU))を開発し、社会連携による早期の実装を推進し、我が国が目指す国際水素サプライチェーン・カーボンサイクル・24時間ソーラー電力の導入に貢献します。

特色ある取り組み

新潟大学の太陽熱利用の研究では、高温で水を熱分解する高活性触媒とそれを利用した太陽集熱による水素製造システムを開発し、現在、オーストラリアのサンベルト(太陽日射の強い地域)で大型の実証試験に取り組んでいます。また、太陽電池開発ではタンデム太陽電池の高効率化に関する5大学連携プロジェクトを牽引、さらに水電解分野では、世界最小の電気エネルギーで水を電解することに成功しています。

このような新潟大学の世界最高水準の研究を基盤とする「カーボンニュートラル融合技術研究センター」を組織しました。それぞれの分野の技術の高効率化・大型化・経済性向上を図ると共に、太陽熱・太陽電池・水電解を融合した新しい技術開発にも取り組みます。

期待できる成果

例えば、太陽熱利用で開発されている高効率蓄熱システムを太陽電池と融合させれば、太陽電池からの電力を電気炉で一旦、熱に変えて蓄熱し、夜間にこの熱を取り出して従来の方法で熱発電できます(蓄熱発電)。蓄熱システムは安価であり、高価なバッテリーを使うことなく24時間、ソーラー電力が使えるようになります。このように技術を融合させることによって、国内・海外、大型・小型、昼間・夜間などの様々な場面に適合した新技術を生み出し、技術の社会実装を早期に実現することが期待されます。

太陽熱利用

豪州での新潟大開発の太陽熱による水分解熱水素製造システムの実証試験 (豪州再生可能エネルギー庁事業)

太陽熱からクリーンな水素をつくる

太陽光を反射鏡で集め高温状態にし、この高温の太陽熱で水を分解し、クリーンな水素エネルギーを製造する技術を開発しています。太陽日射の良い各国・地域からその利用が期待されています。

太陽集熱による水素製造システム

宮崎大学と共同で建設した100 kW級の太陽光集光システム等を用い、実用化に向けた要素技術開発を行ってきました。

実用化を目指しオーストラリアでの実証研究事業に参画

2018年10月から、オーストラリア再生可能エネルギー庁(ARENA)の実証研究事業に参画し技術協力しています。この度の実証実験で技術を確立し、持続可能な水素社会への道筋をつけることを目標としています。

実証研究事業で使用するCSIROの500kW級太陽光集光システム(豪州・ニューカッスル)

ARENA実証研究事業

Solar Thermochemical Hydrogen Research and Development

研究代表機関 CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)
研究参画機関 新潟大学、エネルギー総合工学研究所
研究期間 2018年10月~2023年1月
研究費総額 400万豪ドル(内ARENA補助:200万豪ドル)

太陽集熱によるCO2熱分解技術の大型国際研究開発(NEDO国際事業)

太陽熱を利用した炭酸ガス熱化学分解

本事業では、新潟大学・東京大学・信州大学・コロラド大学ボルダー校の国際共同研究により、炭酸ガス分解用ソーラー集熱反応器の高効率化技術の開発に取り組んでいます。集熱反応器およびシステムの統合解析と実太陽光による実証実験により、太陽エネルギーから合成燃料までの総合変換効率10%以上を実現する技術の見通しを得ることを目的とします。

国際共同研究の概要

この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP20005)の結果得られたものです。

反応性フォームデバイスおよびシステムの研究開発

図に示すように、ポリウレタンフォームをポジ型としたレプリカ法によって、反応性物質であるセリアやヘルシナイトなどの反応性フォームデバイスを開発しています。このような多孔性構造を最適化することで化学反応効率を高めて効率改善を目指します。また、集熱と反応の最適な組み合わせ方を見出すため、様々なケースを想定したシミュレーションを行いながら研究開発を行っています。

見込まれる成果

本研究の終了後、実証プラントによる実証研究を経て、2030年度以後の実用化を進める計画です。本技術は、電気も水素も使わずに炭酸ガスを高効率分解する唯一の技術であり、この分野での競争力が高い技術となることを期待しています。経済産業省のエネルギー基本計画による2050年カーボンニュートラルの実現に向けて役立てる構想です。

NEDOクリーンエネルギー分野における革新的国際共同研究開発事業

炭酸ガス分解用ソーラー集熱反応器の国際共同研究開発

委託元 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
研究参画機関 新潟大学、東京大学、信州大学、コロラド大学ボルダー校
研究期間 令和3年度1月21日~令和6年度1月20日(中間審査有)
研究費総額 約1億5000万円(中間審査有)

Redox金属酸化物・合金・溶融塩セラミックカプセル等による高効率/高温の蓄熱システムの開発

化学・石油、窯業・土石、鉄鋼・金属分野で必要とされる熱エネルギーの7割弱は1000℃以上であり、1000〜1500℃の蓄熱システムの開発が重要です。最近の動きでは、マイクロソフトのビルゲイツが支援したクリーンエネルギー企業Heliogenも、AIを活用した高温用の太陽集光システムと蓄熱システムの開発を精力的に行うなど、欧米等で研究開発が活発化しています。欧州では高温の太陽集熱を蓄熱し、直接、産業熱として使用する社会実装試験も開始されています。

日本では新潟大学が先駆けて800~1500℃の太陽集熱の蓄熱システムの開発を行っています。このような温度帯で作動する蓄エネルギー密度の高い「酸化還元(Redox)金属酸化物による化学蓄熱」、「合金、溶融塩セラミックカプセルによる潜熱蓄熱」、「固体粒子による高温太陽熱レシーバ(顕熱・化学蓄熱)」などに関する最先端の研究を行っています。

Redox金属酸化物による太陽集熱の化学蓄熱

金属酸化物の酸化還元反応をつかって高温の熱(800~1500℃)を化学蓄熱します。

ビームダウン太陽集光システムによる固体粒子による顕熱・化学蓄熱システム

固体粒子(金属酸化物など)に太陽集光を直接照射して加熱し蓄熱するシステムを開発しています。(左から最初の図)
固体粒子(金属酸化物など)を間接的に太陽集熱で加熱し蓄熱するシステムを開発しています。(2つ目と3つ目の図 )

On Sun

Off Sun

高温PCM(Phase Change Materials)セラミックカプセルによる潜熱蓄熱溶融塩

相変化(固体⇔液体)に変化する物質(PCM)をセラミックカプセルに封入した蓄熱材で太陽集熱を蓄熱するシステムの開発を行っています。さらに、空気を熱輸送媒体として使った高温用のソーラーレシーバーとの組み合わせるシステム開発を行っています。

太陽熱のソーラーレシーバー、ソーラー反応器の数値解析

太陽集光を照射られた粒子が流動し熱を輸送する等の複雑系の数値解析を行っています。ソーラーレシーバー、ソーラー反応器、蓄熱システムの開発に必要です。

太陽熱光起電力発電システムの開発

太陽熱利用の次世代技術の一つとして太陽熱光起電力発電(Solar-TPV: Solar Thermophotovoltaic)システムが注目されています。Solar-TPV発電システムは、太陽光吸収材で太陽エネルギーの全てを一旦熱エネルギーとして変換した後、熱ふく射エミッターにより太陽電池が発電しやすい熱ふく射光を放射させるものです。Solar-TPV発電システムは、理想的には太陽エネルギーを一切無駄にしない方法であることから、その変換効率は最大85%が期待出来ると予想されています。さらに熱源は太陽光に限らず、発電プラントや製鉄所の廃熱などが自由に選べることや、太陽熱発電と比べるとタービンのような大型の回転機械も必要無く静音かつメンテナンスフリーであることもメリットです。

光に対する波長選択性を持つ材料を実現させるために、本研究ではメタマテリアルに着目します。メタマテリアルとは、ナノ・マイクロスケールの構造体によって光を制御し、自然界には存在しない新しい光学特性を持つ材料のことです。このように光を自由自在に操れるならば、光エネルギーを自由自在にコントロールすることが可能です。このナノ構造体においては、特定の波長の光に対して強い共鳴状態を起こすことが可能であり、それによって光エネルギーを制御できます。本研究プロジェクトでは、この波長選択性メタマテリアルをSolar-TPVシステムに応用し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献します。

太陽光発電

太陽光の有効活用による変換効率向上

  • トップセルにペロブスカイト太陽電池、ボトムセルに結晶シリコン太陽電池を用いたタンデム太陽電池の構造を最適化し、フルスペクトル活用による高性能化を目指したNEDOプロジェクトを青山学院大学、北陸先端科学技術大学院大学、明治大学、岐阜大学と実施しています。京都大学、豊田工業大学および産業界とも連携し、産学連携コンソーシアムを構築し、タンデム太陽電池の生涯発電量を最大化可能なモジュール構造開発を担当するなど、研究を主導しています。
  • 金属微粒子を用いた有機太陽電池の構造を最適化し、局在表面プラズモン効果による局所電界増強を基にした光電変換層でのフォトキャリア増大、電流増強の技術開発を行っています。広い波長範囲での電界増強のため、銀ナノプリズム、ウニ形状金微粒子など様々な形状の金属微粒子を用いています。また、ナノ金属構造を用いた伝搬型表面プラズモン励起と局在プラズモンの相互作用による大きな電界増強効果を用いた光電変換特性向上の研究も行っています。
  • 金量子ドットの量子効果による波長変換効果を用いて有機太陽電池の高効率化を図っています。有機太陽電池において光電変換への寄与が小さい紫外光を可視光に変換することで光電変換層での光吸収増大・光電変換特性向上について検証しています。

NEDOプロジェクトの実施体制

タンデム太陽電池の構造図

ウニ形状金微粒子による局所電界増強

金量子ドットを用いた有機太陽電池の構造

金量子ドットの量子効果による波長変換と有機太陽電池への応用

紫外光を吸収し可視領域で発光する金量子ドットのイメージ

太陽電池の信頼性向上と用途拡大

  • 封止材を用いない新構造太陽電池モジュールを北陸先端科学技術大学院大学と共同で開発しています。封止材を使用しないことによるコストの削減はもちろんのこと、封止材に起因する劣化現象を抑止できるとともに、セルのリペア・モジュールのリサイクルが容易になるなど、数多くの利点が期待できます。インターコネクタ接続に替わる新規セル接続法であるシングリング接続の有効性も検証しています。
  • 太陽電池表面の汚れ(ソイリング)を防止するコーティングの信頼性を評価する技術を開発しています。鹿児島大学、鹿児島県工業技術センターと共同で構築した曝露サイトにおいて、防汚コートが発電量に及ぼす効果を屋外での長期実証試験で明確化するとともに、屋内試験においてコーティング膜の信頼性も評価しています。
  • 太陽電池モジュールに使用されている材料が太陽電池の長期信頼性に及ぼす影響を微視的解析により明確化することで、酢酸による電極の化学的腐食劣化や電圧誘起劣化等のメカニズムを解明し、太陽電池モジュールの長寿命化に資するモジュール材料やモジュール構造の指針を明確化しています。令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰にて、科学技術賞(研究部門)を受賞しました。
  • 有機薄膜太陽電池が単なる発電技術ではなく、付加価値的に様々なものに取付けられても安全に使えるよう、光や温度、湿度に対する耐久性の信頼性試験をしています。また、活性層、電荷輸送層、電極それぞれの最適化を行い、なぜ高効率が得られるのか調べています。

封止材を用いない太陽電池モジュールの断面構造
(シングリング接続の例)

降灰時の単結晶シリコン太陽電池モジュールの外観
(於:鹿児島県工業技術センター)

分光放射計と日射計
(於:鹿児島県工業技術センター)

Hansen溶解球法による防汚コートの評価

軽量・フレキシブル有機薄膜太陽電池の外観

太陽電池モジュールの構造と部材に起因する劣化要因

水電解

世界最小のエネルギーで水電解水素製造に成功

多孔性ニッケル基板をチオ尿素と共に焼成処理することにより、窒化炭素に包含された硫化ニッケル(C3N4 / NiSx)ナノワイヤーが基板上に析出することを見出しました。これを酸素発生電極として用いて、1.0 M 水酸化カリウム水溶液中で水電解を行った結果、世界に類を見ない超低過電圧で水が分解されることを実証しました。

太陽電池由来の電力を用いた水電解水素製造に成功

国⽴研究開発法⼈産業技術総合研究所・ゼロエミッション国際共同研究センターの佐⼭和弘博⼠、菅⾕武芳博⼠、三⽯雄悟博⼠、牧⽥紀久夫博⼠の研究グループと共同で、⾼効率⽔電解セルと太陽電池を⽤いた太陽光⽔分解によるグリーン⽔素製造システムを開発し、世界最⾼⽔準の効率で1 か⽉間安定に⽔素を製造できることを実証しました。

融合技術

コンセプト

高温の太陽集熱システムや太陽熱による水・CO2熱分解サイクルによる水素・合成ガス製造をも網羅し、太陽熱・太陽光発電・水電解のハイブリッド・融合技術を開発できるところが、本センターの特徴といえます。

ハイブリッド・融合技術の社会実装の例

カルノーバッテリー+太陽集光熱

カルノーバッテリーは、再エネ由来の余剰かつ使用困難な電力を一旦「熱」に変換し、それを「中規模~大規模の蓄熱システム」に一時貯蔵し、電力需要の大きい時間帯に貯蔵した熱を使って発電する“Power-Heat-Power”タイプの再生エネ安定利用法。近年、蓄熱技術の進歩により、実装に向けた研究開発が進んでいます。当センターではさらに太陽集熱も導入したシステム開発も推進することができます。

さらに、日本が目指す海外サンベルトから日本への水素サプライチェーンや、豪州-日本間のメタノールによる国際的カーボンサイクルの構築には、直達日射が大きいサンベルトの特徴を有効に活用して高温用の太陽集熱システムを利用し、水やCO2の熱分解サイクル、バイオマスのソーラーガス化等の熱プロセスと、太陽光発電(熱電池を通して)や水電解とのハイブリット化が有望と考えます。

また、世界の産業熱の7割弱は1000~1500℃の産業熱です。カーボンニュートラルを達成するには、この高温帯の産業熱のカーボンフリー化が必須です。太陽熱のみならず、太陽光・風力発電の電力を電熱変換して安価に高温用の熱電池で蓄熱し、24/7の熱供給を行うシステム開発も重要です。