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スイングバイ二期の石塚淳助教らによる研究成果「ゼロ磁場下において超伝導ダイオード効果の磁化制御に成功 -エネルギー非散逸な不揮発性デバイスへの応用に期待-」

2023年09月26日スイングバイ・プログラム採用者支援研究成果

京都大学化学研究所の成田秀樹 特定助教、小野輝男 教授らの研究グループは、同研究所の島川祐一 教授、菅大介 同准教授、同大学大学院理学研究科の栁瀬陽一 教授、本学工学部の石塚淳 助教らと共同で、超伝導体(※1)、強磁性体、重金属を含む極性超格子(※2)において、ゼロ磁場で一方向のみに電気抵抗がゼロとなる超伝導ダイオード効果(※3)の効率が40%を超えることを観測し、さらに超伝導ダイオード効果の磁化制御に成功しました。 ダイオード効果は、順方向に電流をよく流す一方で逆方向にはほとんど流さない効果であり、整流器(※4)等に広く用いられています。しかし、超伝導ダイオード効果の実現には外部磁場[1]や磁性制御[2]、あるいは特殊な結晶対称性[3]が必要だと考えられており、さらに効率の改善も必要であるため、実用化には限界がありました。 本研究では、ニオブ(Nb)層、バナジウム(V)層、タンタル(Ta)層、プラチナ(Pt)層、 鉄(Fe)層を含む極性構造※1を有した超格子を利用し、ゼロ磁場下において超伝導ダイオード効果の磁化制御に成功しました。この成果は、超低消費電力の新しい不揮発性メモリ(※5)や論理回路の実現へ貢献することが期待されます。

本研究成果は、2023年7月6日(現地時刻)に国際学術誌「Advanced Materials」にオンライン掲載されました。

【参考文献】
[1] F. Ando et al., Nature 584, 373–376 (2020).
[2] H. Narita et al., Nat. Nanotechnol. 17, 823–828 (2022).
[3]Y. M. Itahashi et al., Nat. Commun. 13, 1659 (2022).

【用語解説】
(※1)超伝導体
通常の導体とは異なり、電気抵抗がゼロとなり、エネルギー散逸なく電流が流れる状態を超伝導状態と呼びます。

(※2)極性超格子、極性構造、超格子
極性構造とは分子や結晶の構造に起因して、分子や結晶内に電気的な偏りが生じている構造。非対称な薄膜積層構造の場合には、積層方向に電荷の偏りが生じることが期待されます。超格子とは、成膜技術を用いて複数の種類の原子を繰り返しナノメートルオーダーで積層し、作製された薄膜のこと。本研究では外部磁場下で顕著な超伝導ダイオード効果を示す非対称なNb/V/Ta超格子の一部のVの間に対称なPt/Fe/Ptのユニットを挿入し、この構造を10回繰り返した構造を採用しています。[ABC][ABC][ABC][ABDEDBC]…という積層構造は空間反転によって[CBA][CBA][CBA][CBDEDBA]…という非等価な構造となるため、本研究の超格子は積層方向に空間反転対称性が破れています。極性超格子とは、極性構造を有する超格子のことです。

(※3)超伝導ダイオード効果
物質中のある方向に電流を流した場合には超伝導状態(ゼロ抵抗の状態)になり、逆向きの電流の場合には常伝導状態(有限抵抗の状態)になる現象。

(※4)整流器
電流を一方向にだけ流す作用を有する素子

(※5)不揮発性メモリ
電源を切っても記憶情報が保持されるメモリのこと。

研究内容の詳細

ゼロ磁場下において超伝導ダイオード効果の磁化制御に成功 -エネルギー非散逸な不揮発性デバイスへの応用に期待-

論文情報

【掲載誌】Advanced Materials
【論文タイトル】Magnetization control of zero-field intrinsic superconducting diode effect
【著者】Hideki Narita, Jun Ishizuka, Daisuke Kan, Yuichi Shimakawa, Youichi Yanase and Teruo Ono
【doi】10.1002/adma.202304083