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  • 新潟大学研究推進機構超域学術院の関澤一之特任助教と東北大学の萩野浩一准教授の共同研究による論文が,原子核物理の権威ある専門誌Physical Review C(フィジカル・レビュー・C)に掲載されました.

新潟大学研究推進機構超域学術院の関澤一之特任助教と東北大学の萩野浩一准教授の共同研究による論文が,原子核物理の権威ある専門誌Physical Review C(フィジカル・レビュー・C)に掲載されました.

2019年05月30日テニュアトラック事業研究成果

Physical Reviewはアメリカ物理学会が発行する査読付きの学術雑誌で,物理学の様々な領域毎の専門誌を発行しており,Physical Review Cは原子核物理の専門誌です.当該論文は,重要な意義のある成果を上げた論文として速報版「Rapid Communication」に掲載されるだけでなく,編集者の注目論文「Editors’ Suggestion」として取り上げられ,雑誌ホームページのトップページで紹介されています(2019年5月現在).この成果は,未知の超重元素の合成に関する重要な知見を与える大変意義深い成果であり,今後のさらなる発展が期待されます.

掲載された論文
「Time-dependent Hartree-Fock plus Langevin approach for hot fusion reactions to synthesize the Z=120 superheavy element(120番超重元素を合成する熱い核融合反応を記述する時間依存ハートリー・フォック+ランジュバン法)」,K. Sekizawa, K. Hagino著,Physical Review C, Vol. 99, 051602(R) (2019)

論文の概略
みなさんは,実は周期表がまだ完成されていないということを知っていましたか?例えば,新しい元素として113番,115番,117番,118番元素が追加され,7行目(第7周期)が完成したのは,つい最近のことです(2016年6月).特に113番元素は,理化学研究所の実験グループによって人工的に合成され,日本発,そしてアジア初の元素として,「ニホニウム(Nh)」という名前で新たに周期表に加えられました [1].実は,ニホニウムに代表されるような新元素の合成は,私たちの研究分野である「原子核物理学」で探求している挑戦的な重要課題の一つです.

地球上に天然に存在する安定な元素の内,最も原子番号が大きい元素はウラン(原子番号92)であり,それより大きい原子番号を持つ元素は人工的に生成されました.その中でも原子番号が104番以上の元素は超重元素と呼ばれ,加速器を用いて2つの原子核を衝突させ,くっつける,核融合反応によって生成されます.原子番号の大きさは原子核を構成する陽子の数であり,非常に強い電気的な反発力により,超重元素の合成は極めて困難になります.どれだけ困難かというと,約1万回に1回という非常に小さい確率でしか衝突した原子核がくっつかない上に,たとえ運よく“くっついた”としても(複合核の形成),約10億分の1という途方もなく小さい確率でしか超重元素として生き残らないのです!そのため,最先端の実験装置を用いることはもちろん,精緻な理論に基づいて合成に最適な反応条件を予測することが本質的に重要となります.

人類の英知として未来永劫語り継がれるであろう周期表に名前が刻まれることは多大な意義を持ち,世界中で競争が激化しています.ニホニウムより大きい原子番号をもつ超重元素は,アクチノイド領域の重い原子核に48Caカルシウム同位体を衝突させる,「熱い核融合反応」によって合成されました.この成功の背後には,48Caが二重魔法数を持つことが関係していると考えられています.(二重魔法数とは原子核内の陽子・中性子の軌道が閉殻になることであり,ちょうど電子軌道が閉殻となる希ガス原子のように,原子核が安定になることが知られています.)次なる目標は,未知の119番,120番元素の合成です.しかしながら,119番,120番元素を合成するためには,48Caよりも原子番号の大きい原子核を入射核として用いる必要があり,反応機構を解明することが急務となっています.

そこで私たちは,原子核衝突の初期過程を微視的に記述する量子多体理論と,複合系の形の熱揺らぎによる融合過程を記述するランジュバン模型,および複合核が生き残る確率を評価する統計模型を結合させた,新しい理論的枠組みを構築しました(TDHF+Langevin法)[2].その方法を未知の120 番元素を合成する複数の反応に応用し,48Ca 原子核の二重魔法数は衝突の初期過程には大きな影響を与えないものの,複合系の励起エネルギーを低くする効果によって,超重元素の生き残り確率に影響を及ぼすことを明らかにしました.この成果は,未知の超重元素の合成に関する重要な知見を与える大変意義深い成果であり,今後のさらなる発展が期待されます.

この成果はHPCI(革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)システム利用研究課題(題目: 不安定核生成の予言へ向けた時間依存密度汎関数法の拡張とその応用, 課題ID: hp180080)において,最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)が運用する日本最大級,世界第14位(2018年11月時点)のスーパーコンピュータ「Oakforest-PACS(オークフォレスト・パックス)」を利用することによって得られました.私たちは,最新の理論と計算機を駆使し,原子核物理学のさらなる発展に貢献することを目指しています.

参考文献・リンク
[1] 理研仁科センター 113番元素・ニホニウム 特設ページ.
[2] K. Sekizawa and K. Hagino, Time-dependent Hartree-Fock plus Langevin approach for hot fusion reactions to synthesize the Z=120 superheavy element, Phys. Rev. C 99, 051602(R) (2019).
[3] 「Kazuyuki Sekizawa’s blog」には,シミュレーション結果の動画も公開されています.

超重元素合成過程を記述する新しい理論的枠組み(TDHF+Langevin法)の概念図.