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結晶間構造一致を誘起する安価かつクリーンなナノワイヤー半導体結晶の合成法を発見(齊藤健二助教)

2014年04月01日テニュアトラック事業研究成果

結晶間構造一致を誘起する安価かつクリーンなナノワイヤー半導体結晶の合成法を発見

【本研究の概要】

 本学工学部機能材料工学科・若手研究者育成推進室・齊藤 健二テニュアトラック助教は、前例のないモノクリニック相のモリブデン酸銀ナノワイヤー(m-Ag2Mo2O7-NW)を安価かつクリーンな方法で開発することに成功しました。

 半導体粉末を用いた光化学的水分解による水素製造は、光電気化学的なアプローチに比べてコスト的に優位であることから、現在、国内外で活発に研究が行われています。一方、良質な半導体結晶を合成する場合、数百度以上の高温環境を要することが一般的であり、より低コストで高品位な半導体を作るための技術開発は、実用化を視野に入れた際に重要なウェートを占めると予想されます。

 今回、研究チームは市販の酸化モリブデンと硝酸銀の粉を水に入れて還流するだけで、極めて高い結晶性を有するm-Ag2Mo2O7-NWが得られることを見いだしました。低温(< 100度)、短時間(実質1時間程度)、および一段階で高結晶性の半導体がほぼ100%の収率で得られ、反応媒体は水であり、有害な副生成物も排出しないことから、コストと環境負荷の両面で優れた合成法であるといえます。なぜこのように高結晶性の半導体が得られたのかを調べたところ、粒子の成長機構の違いによるものであることがわかりました。具体的には、鋳型を用いずにナノワイヤーのような異方性の高い半導体が生成する際のメカニズムとして、オストワルド熟成とOriented aggregation機構が知られており、これまでに報告されているものの大部分は前者でした。本研究では、あえて水に溶けにくい酸化モリブデンを出発原料とすることで、結晶間の構造一致を利用した後者を誘発させることを明らかにしました。得られた粉末を用いて光触媒反応を検討したところ、オストワルド熟成機構を経由して得た粒子は全く活性がなかったのに対し、m-Ag2Mo2O7-NWが硝酸銀を電子アクセプターとする可視光(λ > 400 nm)照射下での酸素生成反応に活性を示すことを見いだしました。本研究のような実用化に資する合成技術を他の物質開発にも応用することができれば、太陽光と水を用いた、夢の水素製造研究の発展に貢献できるものと期待されます。

 本研究成果は、米国化学会の無機化学誌『Inorganic Chemistry』(2013年7月17日)に速報誌として掲載されました。

【用語解説】

  • 半導体
    電気伝導性を示す物質であり、そのエネルギー構造は電子で満たされている価電子帯と満たされていない伝導帯で構成される。
  • 還流
    反応管に溶液を入れ、その沸点以上の温度で加熱する。気化した溶媒は反応管の上部に取り付けられた冷却管により冷やされ、反応管に戻る。このように蒸発と凝縮を繰り返した状態で反応を行うこと。
  • オストワルド熟成機構
    小粒子の減少とともに、大粒子が成長する機構を指す。
  • Oriented aggregation機構
    結晶同士が自己組織的に融合する機構を指す。
  • 電子アクセプター
    電子を受け取る物質であり、本研究では、光を半導体に照射した際に伝導帯に生じる励起電子を受け取る物質のことを指す。

お問合わせ先

  • 新潟大学工学部機能材料工学科 齊藤健二
    e-mail: ksaito[at]eng.niigata-u.ac.jp