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金属ナノアンテナ構造を利用した新しい量子もつれ光の生成法を提案(岡寿樹准教授)

2014年04月01日テニュアトラック事業研究成果

金属ナノアンテナ構造を利用した新しい量子もつれ光の生成法を提案

【本研究の概要】

 量子もつれ光はレーザー光には存在しない「量子相関」をもつことが知られており、量子テレポテーションなど次世代情報通信技術として期待されている量子情報通信技術の担い手として有名です。しかし最近では、量子もつれ光を励起光源とした分子科学への応用研究が展開されつつあります。例えば、高効率2光子励起や分子状態の量子制御、仮想励起計測法や蛍光相関分光法などが提案され、光を用いた新しい分子制御や分光技術への応用が期待されています。特に分子状態の量子制御が実現できれば「光化学反応の制御」も可能になるため、現在、世界中で精力的に研究されています。

 このような分子科学分野に対して量子もつれ光を応用するためには、量子情報通信技術において要求されてきた従来の量子もつれ光の特性(偏光もつれや通信波長帯)ではなく、光化学反応誘起に適した紫外域における周波数もつれの生成とその超短パルス化が必要不可欠となります。しかし、既存の生成法には上述の条件を全て満たしているものはないというのが現状でした。

 今回、岡寿樹准教授は、この問題を解決すべく、金属ナノ構造に形成される局在表面プラズモンの光学応答に着目し、ナノアンテナ構造(図)を用いることで紫外域周波数もつれ光の超短パルス化が可能であることを明らかにしました。この新しい生成法では、ナノアンテナを構成する金属ナノ構造間の相互作用が光子対に転写されることで、効率良く周波数もつれが形成されます。またアルミニウムや銀のような金属はそのプラズモン共鳴波長が紫外域にあるため、紫外域量子もつれ光の生成も可能になります。更に、表面プラズモンの非常に速い発光寿命を利用することで、約10 fsの超短パルスの生成も可能になります。このように今回提案された新しい生成法を用いると、分子科学分野への応用に要求された上述の全ての条件を満たす量子もつれ光の生成が可能になります。

 今回提案された新しい生成法により、分子科学分野への応用を目指した量子もつれ光生成研究が促進され、新しい分子状態の制御法や分光法の実証研究への展開が期待されます。また金属ナノアンテナ構造は量子もつれ光生成だけではなく、分子系のナノ光反応場としての応用も議論されているため、量子光学と量子化学を結ぶ新しい融合研究分野が拓かれる可能性も期待できます。

 本研究成果は米国物理学協会の学術誌(Applied Physics Letters)の電子版(2013年10月25日付)に掲載されました。

【用語解説】

  • 量子もつれ(量子相関)
    非局所性と呼ばれる距離に全く依存しない相関の総称です。特にこのような相関を持つ物理的な対象が互いに識別不可能なとき、量子もつれと呼びます。
  • 量子情報通信技術
    量子力学の基本原理である「重ね合わせの原理」を用いた新しい情報通信技術の総称です。量子暗号、量子テレポテーション、量子コンピュータなど従来の情報処理技術を凌駕する様々な応用が考えられています。
  • 量子制御
    物質をミクロなレベル(量子状態)で直接制御することで、化学反応の直接制御やナノスケールで機能するデバイスの作成等を目指した新しい量子力学の応用研究の総称です。化学の分野では特にコヒーレント制御と呼ばれます。
  • 局在表面プラズモン
    ナノスケールの金属に光を照射すると、金属近傍に局所的に増強された電磁場が発生します。これを表面プラズモンと呼び、特に金属ナノ粒子に限定したものを局在表面プラズモンと呼びます。非常に強いアンテナ効果を示すために、バイオセンサーや太陽電池などへの応用が期待されています。
  • ナノアンテナ構造
    金属ナノ構造を様々な形状に加工することで、上述の局在表面プラズモンのアンテナ効果を更に増強することが可能になります。現在、球状、矩形、楔形、ロッド型など様々な構造が考えられています。

お問合わせ先

  • 新潟大学 研究推進機構 超域学術院 岡 寿樹
    TEL:025-262-7649