オデッサとウラジオストクから見る末期のロシア帝国
【研究期間】
2015年4月~2018年3月
【採択プログラム名】
科学研究費若手B
【交付予定額】
270万円(直接経費)
【採択領域】
西洋史
【概要】
ソ連崩壊後のロシア史研究は、文書館が外国人にも開放されたことで、以前は注目されていなかったさまざまな地域の歴史を掘り起こし、ロシア帝国やソ連の多元性を描いているが、それらの研究成果を統合してロシア全体を俯瞰する動きは限られている。本研究は、これまで別個に行われてきた黒海沿岸とロシア極東の歴史を、海からの辺境統合と拡張という観点から一連の流れとして理解する枠組を提供する。たとえば日本のロシア極東史研究は日露関係史の文脈で行われることが多かったが、本研究は第一次世界大戦前のロシア極東におけるロシアの動向を、ロシア帝国論や「グローバル化」の観点から、同時期のバルカン方面の動きと連動するものとして理解することを目指す。
これまでのロシア帝国論は、軍事力や民族・宗教関係を利用した勢力拡張や統合に注目してきたが、経済関係の利用については未開拓である。しかし、当時のロシア政府が経済力の外交への影響も考慮していたことは私のこれまでの調査から明らかであり、そのことが最も端的に現れるのが海運の問題である。ロシア帝国は「陸の帝国」というイメージが強く、ロシア帝国の構造を港や船から理解するという試みは国際的に見てもなされていないが、ロシア帝国の勢力拡張や辺境統治における海域の役割を明らかにすることにより、これまでの「陸の帝国」ロシアというイメージに修正を迫ることができる。そのことにより、ロシア史と他の国の歴史との接点を増やし、ロシアの動きを世界史的な流れの中に組み込むことが容易になる。 さらに、本研究が扱う第一次世界大戦前の時代は、現代のグローバル化に先駆けて世界経済の一体化が進んだ時代であると、しばしば指摘されている。しかしこれまで、「グローバル化」の歴史的研究においてロシアは等閑視されてきた。船という世界経済の一体化を強く推進した交通機関に着目することにより、本研究はロシア帝国の動きと大戦前の「グローバル化」との関連を描く。このような試みは、国際的に見てもなされていない。
<1911年のロシア汽船貿易社の航路図>