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20世紀初頭の環日本海と環黒海の比較研究:ロシア帝国論の視点から(左近幸村准教授)

2015年04月01日テニュアトラック事業研究成果

稲盛財団研究助成の平成27年度助成対象者に左近幸村 准教授が選考されました。

稲盛財団研究助成の平成27年度助成対象者に、左近幸村 准教授が選考されました。

稲盛財団研究助成の平成27年度助成対象者は、大学や研究機関に所属する462名の研究者の中から自然科学系40名、人文・社会科学系10名の合計50名、昨年度に2年連続助成対象となった1名(自然科学系)を加えた51名が選考されました。

「稲盛財団研究助成」とは・・・

産業、経済、文化の発展に貢献する科学技術、表現芸術等を中心とする分野で、国内の若手研究者を対象とした独創的で優れた研究活動を助成することによって、将来の国際社会に貢献する人材の育成を図り、学術、文化の促進と国際相互理解の増進に努める財団です。

交付金額は毎年50件、1件につき100万円を交付しています。

「稲盛財団研究助成」のWebサイトはこちらです。

研究概要

【採択領域】

人文・社会科学系

【研究期間】

2015年4月~2016年3月

【交付予定額】

100万円

【採択課題名】

20世紀初頭の環日本海と環黒海の比較研究:ロシア帝国論の視点から

【概要】

 ロシア帝国論はこの20年程の間に長足の進歩を遂げ、各地域における統合と拡張の論理が明らかになったが、その分地域ごとの研究の細分化が進んでおり、これまでの成果を統合し帝国全体を俯瞰するような研究が求められている。ロシア帝国の南下政策が、西(近東)か東(極東)かで逡巡していたことはかねてより指摘されてきたが、両地域の比較も行われていない。本研究は、これまで別個に行われてきた地域の比較を行って、帝国全体の統合と拡張の特徴を明らかにする。

 その際、ロシア国内だけでなく国際環境の問題、中でもオスマン帝国と清帝国の存在とそこへの欧米列強の進出過程に着目する必要がある。オスマンと清の比較研究の試みは国内外で散見されるが、そこでロシアとの関係に着目したものはない。しかしオスマンとも清とも国境を接していたゆえに、ロシア帝国の辺境統治はオスマン、清と政治的経済的に密接に結びついていた。したがってロシアの東西の南下政策を比較すると、必然的にオスマンと清の衰退過程の比較にも踏み込まざるをえなくなる。ただしその内政的要因に踏み込むのには限界があるので、国際政治と経済関係の観点から比較を行うことにする。そのことにより、問題をロシア、オスマン、清の三国に限定するのではなく、欧米も含めた国際関係を描くことが可能となる。また環黒海の状況に関しては第一次世界大戦の勃発と密接に関連しており、比較の視点を大戦中まで持ち込むことにより、「世界大戦」としての第一次世界大戦の構造を把握することも目標としている。  本研究は環黒海の拠点としてのオデッサと環日本海の拠点としてのウラジオストクの比較を軸に据える。この2つの港がロシア側の経済的拠点となり、国境を越えた周辺地域との繋がりを形成したからである。特に両港を起点とする海運の役割に着目する。海運に着目するのは、そのネットワークが単に国際的な広がりを持っていたからだけではない。ロシア海運にとって、環黒海の場合はユダヤ人やギリシア人、環日本海の場合は中国人や朝鮮人が大きな役割を果たしたからである。帝政期のウラジオストクと東アジアの経済的繋がりについては、申請者は修士課程のころから研究してきた。そこで今後はオデッサ周辺地域の研究を重点的に進め、これまで行ってきたウラジオストクの研究成果と比較する。

 第一次世界大戦直前、ドイツとオーストリア=ハンガリーが鉄道を敷設してバルカンやオスマン帝国領の市場へ進出することを、オデッサの商工業者は警戒していた。同様にウラジオストクの人々も、鉄道による中国東北と朝鮮への日本資本の進出を警戒していたが、両港が一致して出した対策案が自由港制の導入であった。本研究はこうした類似点に着目して、ロシアの官民がユーラシアの東西において経済的手段により勢力拡張を図る過程を比較する。同時に、欧米からの投資のあり方に着目してロシア、オスマン、清の比較を行い、環黒海と環日本海における列強の角逐の類似点・相違点も整理する。その上で列強の経済的角逐と第一次世界大戦開戦の関係を明らかにし、その後の展開に大戦前の国際関係が与えた影響も考察する。

 本研究計画については、稲盛財団の研究助成選考委員である山室信一京都大学教授より「ネグリとハートによる『帝国論』の流行が終わった後、実体としての帝国の有り様が如何なるものであったかが一層重要な課題となっています。当該研究は、ロシア帝国を日本海と黒海という、その辺境の視点から見返すという新鮮かつ魅力的な視点を提示している点で研究の進展に期待を抱かせます。さらに、環日本海と環黒海のいずれものが、現在の東アジアやヨーロッパにおける国際政治の焦点となっていることを鑑みれば、こうした研究が新潟大学という環日本海研究の拠点で進められていることに助成する意義は少なくありません」とのコメントを頂いた。