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マメ科植物の根粒形成が光条件によって制御される新たな仕組みを発見(酒井達也准教授)

2011年04月01日テニュアトラック事業研究成果

マメ科植物の根粒形成が光条件によって制御される新たな仕組みを発見

【本研究の概要】

本学大学院自然科学研究科・若手研究者育成推進室・酒井達也テニュアトラック准教授は、佐賀大学・農学部・鈴木章弘准教授を中心にした研究チームに参加し、マメ科植物の1窒素固定器官である根粒の形成が葉に当たる光の量ではなく、質(色)の違いによって制御されることを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、理化学研究所・植物科学研究センター・神谷勇治グループディレクター、鹿児島大学・内海俊樹教授、宮崎大学・明石良教授、かずさDNA研究所・佐藤修正室長、カリフォルニア大学ロサンゼルス校Ann M. Hirsch教授らも含めた国際研究チームの共同研究によるものです。
根粒はマメ科植物と根粒菌の共生関係が成り立っている器官であり、マメの増産になくてはならない重要な働きをしています。根粒菌は根粒において空気中の2窒素を固定し、窒素源としてマメ科植物へ供給しています。一方マメ科植物は3光合成産物をエネルギー源として根粒菌へ与え、その増殖を助けています。日陰で育つマメ科植物は根粒が減少しますが、これは光合成活性が低いために根粒菌へ供給出来る栄養が少ないことが原因である、とこれまで考えられてきました。
今回、研究チームはマメ科植物ミヤコグサの赤色光受容体フィトクロムBが異常になると、根粒形成が減少することを発見しました。植物体は通常、他の植物体が光受容を阻害するように覆い被さると、赤色光が減少し遠赤色光の割合が増加したという光環境情報として感知し(他の個体の葉を透過してくる光では赤色光が減少する)、茎を徒長させ陰から逃げる避陰反応を起こします。これに働くのがフィトクロムB光受容体で、フィトクロムBが異常になると避陰反応はおこりません。研究チームは地上部で光環境情報を認識するフィトクロムBが、地下部に存在する根粒の形成を調節するという興味深い現象を発見しました。さらには、フィトクロムBが植物ホルモンの一つ4ジャスモン酸の生体内量を調節することによって、地下の根粒形成を制御することを明らかにしました。すなわち日陰にあるマメ科植物は、フィトクロムBの光環境認識により活性型ジャスモン酸を体内で減少させ、地下部の根粒形成を一時的に阻害し、茎に栄養を優先的に供給して徒長を誘導し、光合成のしやすい日向を目指す、という戦略をとっていることが今回明らかとなりました。
本研究結果は、植物工場などにおける光照射装置の光の波長(光の色)制御が、根粒形成調節につながる可能性を示唆しました。また今後、活性型ジャスモン酸の生合成経路の調節機構を解明することにより、マメ科作物の根粒形成促進技術が開発できるのではないかと考えられます。本研究を発展させることで将来、合成窒素肥料の使用量を減らし、より地球に優しい農業が可能になることが期待されます。
本研究成果は米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences, USA)の電子版(9月19日付、日本時間9月20日)に掲載されました。

【用語解説】

  • 1根粒および窒素固定
    マメ科植物は土壌中に生息する根粒菌と共生して根に根粒と呼ばれる「こぶ」状の器官を形成し、そこで空気中の窒素をアンモニアに変換している。この反応を窒素固定という。ここで固定されたアンモニアがマメ科植物の主要な窒素源となっている。
  • 2窒素および窒素肥料
    窒素はタンパク質を合成するためにすべての動植物にとって非常に重要な元素だが、ほとんどの動植物は空気中の窒素を直接利用できない。そのため私達を含めた動物は、固定された窒素を食物として摂取し、植物は土壌中の窒素化合物を根から吸収している。そして慣行農業では、作物の生産に最も大きな影響を及ぼす窒素肥料を農地へ投入している。しかしながらこういった化学窒素肥料の合成時には、大量の化石燃料が必要とされ、温室効果ガスを放出し、農地へ投入された過剰な窒素分は、そこから流出して土壌汚染、水質汚濁等多くの環境問題を引き起こしている。
  • 3光合成
    光エネルギーを化学エネルギーに変換する生化学反応であり、光合成生物は光エネルギーを 使って水と二酸化炭素から炭水化物を作り出している。
  • 4ジャスモン酸
    植物ホルモンの1つ。果実の成熟や老化促進、休眠打破などを誘導するとともに、さまざまな環境ストレスへの耐性誘導ホルモンとして働く。生体内で実際に機能しているのは活性型ジャスモン酸(ジャスモノイルイソロイシン等)であると考えられている。

日向ではR/FR比(赤色光・遠赤色光の量比)が高いため避陰反応が発動されず、根粒形成は促進される。一方日陰ではR/FR比が低くなり、より良い光条件を得るために避陰反応が発動され、エネルギーを効率よく利用するために根粒形成は回避される。

お問合わせ先

  • 佐賀大学農学部 鈴木章弘(研究全般について)
    TEL/FAX:0952-28-8721
  • 新潟大学大学院自然科学研究科 酒井達也 (光受容体、ミヤコグサ突然変異体について)
    TEL/FAX:025-262-7880
    ※酒井達也テニュア・トラック准教授のプロフィールはこちらです。
  • 理化学研究所植物科学研究センター 神谷勇治 (植物ホルモンの定量解析について)
    TEL/FAX:045-503-9661
  • 鹿児島大学大学院理工学研究科 内海俊樹 (マメ科植物の根粒形成について)
    TEL/FAX:099-285-8164
  • 宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 明石良 (ミヤコグサについて)
    TEL/FAX:0985-58-7257
  • かずさDNA研究所植物遺伝子研究室 佐藤修正 (ミヤコグサの遺伝子について)
    TEL/FAX:0438-52-3935