• ホーム >
  • ニュース >
  • 成長円錐のプロテオミクスから脳構築と損傷修復の過程を探る

成長円錐のプロテオミクスから脳構築と損傷修復の過程を探る

2011年03月31日超域学術院プロジェクト

年次報告書研究成果報告書

 成長円錐は脳の神経回路を形成するために発達期の神経細胞の突起先端に形成される構造体であり、活発に運動して遠距離を移動し、正しい経路と標的を認識してシナプス形跡を行う。この構造体は、神経回路の構築および修復に必須の構造体であるが、それを担う分子機構は哺乳動物では全く分かっていない。本プロジェクトは、代表者の研究室を中心に成長円錐のプロテオミクスの手法で分子情報を包括的に得て、それをもとに神経回路の形成とリモデリングに関与しうる多数の蛋白質群の役割を、発生工学で作成したマウスや、リアルタイムの各分子の挙動解析を用いて明らかにし、神経回路の構築・修復の分子情報を飛躍的に広げることにある。またこれらの研究を通じて、網羅的に神経系分子群の機能を研究する技術を確立することがもう1つの目標である。学内の発生工学の横山・佐藤グループ、神経再生の柴田グループ、及び学外4名の研究者と連携して、第一期の目的は後述の通り、基本的には概ね達成した。主たる研究手段として、蛋白質を網羅的に同定するプロテオミクスの手法をまず用いた。またこの系に空間的な情報を導入するため、多数の同定分子に対して新規抗体を作成し、系統的な免疫染色を施した。これによって、空間的に成長円錐に濃縮されている分子を定量的に、かつ効率的に見出すことに成功した。さらにRNAi(RNA干渉)を多数の遺伝子に適用する新手法を、EGFPトランスジェニックラットを使用して開発した。神経成長時の分子動態のリアルタイム解析は種々のバイオイメージングを駆使して行われた。またシナプス関連分子の解析、軸索再生関連のモデルマウスの作成に成功した。今春からの第二期においては、これらの分子群の個別の役割と、神経機能(可塑性、神経再生)との関連性について具体的な解析を詳細に行うこととし、この半年余に相当の結果が出ている。複雑で、かつ多数の技術を組合わせて解析する神経系の研究において、網羅的な分子の検討がいかに強力な研究手法であるかを実証した点が、本プロジェクトの最大の特色といえる。これらの研究を通じて、着目する分子群も全く従来とは異なり、新しい研究視点を開拓した点が本グループの独創性といえる。

成長円錐を特定の分子の抗体で染色したもの(扇形の紫色に染まる構造体が、神経細胞の先端に局在する運動性の高い成長円錐と呼ばれる構造で、脳の神経回路の形成を担う)。

微細な構造である成長円錐を観察するための特殊な顕微鏡

実験風景(成長円錐を培養条件下で観察し、その遺伝子発現を抑制するRNAiという実験法を実施する)