プロテオーム発現系の機能工学的研究

2011年03月31日超域学術院プロジェクト

年次報告書研究成果報告書

 生命現象は生体内タンパク質全体(プロテオーム)のネットワークにより演出される。そのため、プロテオーム発現系は生命活動の根幹に存在する生体反応系であり、全ての生命科学研究の基本となる重要な領域である。最近、各種タンパク質発現系が開発され、成果をあげてきた。しかしながら今日でも、構築した発現系が機能しない例や発現タンパク質が不溶化・不活性化する例は頻繁に見られ、ポストゲノム研究の大きな障害となっている。一方、今世紀初頭に、生体内タンパク質合成装置の中心となる巨大分子集合体「リボソーム」の結晶構造が報告され、タンパク質の合成される仕組みが分子・原子レベルで議論できるようになり、タンパク質発現の研究は新たな段階を迎えている。本プロジェクトでは、リボソームを中核にすえ、結晶構造データを基盤としてタンパク質合成装置の動態制御機構を解明し、人為的分子改変により合成装置の機能調節を図る点を主要な目的とする。本研究の最大の特色は、タンパク質合成反応にエネルギーを提供し、動的機能中心となるリボソームGTPaseセンターに研究の焦点を置く点にある。この部位はリボソーム粒子の中で運動性に富み、リボソーム粒子結晶データからは実体が捉えられないミステリアスな部位である。本プロジェクトでは生化学的解析等からこの部位の分子構造基盤を解明し、様々な分子改変により人為的にタンパク質合成の速度を調節し、タンパク質の発現系の改良に寄与する。また、タンパク質合成の律速となる開始段階をスキップする一部の昆虫ウイルスのIRES(リボソーム内部進入部位)を介したタンパク質合成などの動植物に見られるユニークなタンパク質合成制御機構を解明し、その知見も新規タンパク質発現系の開発に利用する。