本プロジェクトは、当初、「多元性社会の原型としてのヘレニズム」という課題名を掲げて発足した。それは、アテーナイをはじめとする古典ギリシア時代の都市国家が政治的に没落し、代わりにアレクサンドロス大王の帝国、さらにはローマ帝国が出現してくるヘレニズム時代を研究することが、同じ「グローバル化」現象に見舞われている現代の諸問題ともつながってくるという確信に基づくものであった。
この確信は今なお変わっていないが、その後、ヘレニズム研究だけでは「間口」が狭く、多くの研究者が参入することは期待できないこと、また同時期に行われていた日本学術振興会人文・社会科学振興プロジェクト研究事業「教養教育の再構築」(~平成19年度)のプロジェクト・リーダーを本プロジェクトの代表者である鈴木佳秀教授が務めており、そこで培われた問題意識および貴重な人脈を活かしたいこと等々の考慮から、研究目標を一回り拡大し、「19世紀学」という、類例のない斬新なコンセプトを打ち出すこととなった。
こうした事情から、超域研究機構の本プロジェクト「19世紀学研究 -ヘレニズムから見た変革と教養の世紀-」は、新潟大学コア・ステーションInstitute for the Study of the 19th Century Scholarship(19世紀学研究所)ならびに19世紀学会と連携し、国際シンポジウム等はすべて共催の形て研究プロジェクトを推進してきた。単に「19世紀」でなく「19世紀学」とするのは、19世紀という時代を研究対象とするのではなく、19世紀に基盤が整った諸「学」を総合的に研究するという意味である。理科系・工学系の分野もそこに含まれている。ヘレニズム研究もまた、まさに「ヘレニズム」という歴史学用語が19世紀の西洋古代史学者ドロイゼンの創案であるという点から、19世紀学の一部分として位置づけることができるのである。