歯周疾患が全身に与える影響に関する分子基盤解明

2012年11月30日超域学術院プロジェクト

年次報告書

 歯周疾患は細菌感染による慢性炎症性疾患である。近年、慢性感染症が冠動脈性心疾患や動脈硬化性脳血管疾患などのリスク因子になっていることを示すデータが蓄積されてきており、諸外国におけるいくつかの疫学調査から歯周疾患もまた、これら疾患のリスク因子であることが示されている。しかしながら、冠動脈疾患のリスク因子は人種間における閾値に大きな差があり、歯周疾患の及ぼす影響に関しての本邦におけるデータはほとんどないこと、および生物学的背景については不明な点が多いという大きな問題点がある。これらを明らかにすることは、歯周疾患のみならず広く慢性感染症が動脈硬化性疾患に及ぼす分子基盤の解明につながる。さらに、歯周炎予防と心疾患予防を関連づけた公衆衛生学的予防プログラムの確立に結びつく。そこで本プロジェクトでは、①in vivo解析としての症例対象研究と介入試験、ならびに大規模疫学調査によるコホート研究②実験的歯周炎動物モデルの作成を行い、これを用いてin vivo, in vitroにおける免疫細胞・遺伝子レベルの基礎的解析を行うこととした。
①に関しては医学部公衆衛生学教室、新潟市民病院循環器科との共同で行うことにより、実際に歯周疾患を有する冠動脈疾患患者、住民基本健診受診者の5年間に渡る追跡調査が可能となり、本邦では類を見ない研究結果が蓄積されつつある。
②に関しては、これまでApoE欠損マウスなどを用いて歯周病原細菌の腹腔投与による影響を調べた報告などはされているものの、非生理的で、ヒトの病態を反映したものとは言い難い。我々は、正常マウス(C57BL/6J)に口腔から細菌を接種するというこれまでにない方法を採用し、歯周炎を発症させることとした。さらに、このモデルにおいて、動脈硬化症に直接・関節に関連する遺伝子の発現を大動脈、肝臓、脾臓を対象としてDNAマイクロアレイで網羅的に解析することとした。また、この過程で明らかになった関連遺伝子については血管内皮細胞を用いたin vitro研究で病態との関連を解析することとした。